シャア専用ねこのブログ

鳥取の宣伝をメインに、日々の雑感や体験、出来事などをてきとうに記載

勇者の苦難 旅立ち編

 

 

前略 お母さん様

勇者です。

 

最初の街を旅立って、早数日、息災であることを心から祈っております。

私はというと、早くもこの旅に出たことを後悔しております。

 

魔物退治が辛くなったのではありません。

ひきつれるメンバーが、あまりにも個性的で、しんどいのです。

 

まずは戦士。

パーティ随一のインテリであり物知りです。

メガネをかけており、これ見よがしにクイッとやるのがイライラします。

 

勇者「…せ、戦士さんはメガネをかけてらっしゃるんですね」

戦士「ははは。お恥ずかしい。勉強のし過ぎで。」クイッ

勇者「えー! 勉強できるんですね! それは凄い。得意科目は?」

戦士「量子力学流体力学です。熱統計力学も得意としております。」クイックイッ

勇者「!! な、なんですか、その聞きなれない学問は…」

戦士「なあに。電子の存在確率を記述したり、水の流れを記述したり…」クイッ

勇者「そ、そうなんですね…。 あの、失礼ですが、剣術は…」

戦士「はっはっは。ご心配なく。もちろん剣術も得意ですよ」クイッ

勇者「そうですよね。剣術できないと戦士名乗れないですもんね」

 

 

と、会話だけ聞けばまともに見え、腕も確かなのですが、戦闘ではあまり役に立ちません。

常に、何らかの計算をしており、中々行動に移ってくれないのです。

 

戦士「むう。今の角度で切りつけると、ろっ骨を分断できないのか。これはよどみ点の計算が違ったか… もう一度計算しなおしてみるか。 ににんがし、にさんがろくすけ…」

勇者「あ、あの… 戦士さん?」

戦士「今計算中でしてね。質問なら後にしてもらってもよろしいですか?」クイッ

勇者「いや、戦闘中なので、計算を後にしてほしいんですけど…」

戦士「勇者殿にはこれが、単なる計算に見えるとでも? これはいかに魔物を効率よく倒すのかの計算式であり、ここから導き出された答えに従うことにより、なんやかんやで敵を効率よくほふりさることができ、なおかつ云云かんぬん…」クイックイックイッ

勇者「わ、わかりました! 計算に集中してください!」

 

といった始末。

 

お次は僧侶。

この僧侶が輪をかけて曲者でして…

 

勇者「こんにちは、よろしくお願いいたします。」

僧侶「俺をパーティーに加えるなら、一つだけ。俺の後ろには絶対に立つな」

勇者「え… それはなぜ?」

僧侶「理由を言わないといけないのか?」

勇者「いえ、そんなことは…」

僧侶「だったら話が早い。俺の後ろには絶対に立つな」

勇者「ま、まあ僧侶さんは後衛ですから… 最後尾で問題ありませんけど…」

僧侶「いついかなるときでも、だ。俺の後ろには絶対に立つな」

勇者「わ、わかりました」

 

こんな有様ですから、当然戦闘では役に立ちません。

 

勇者「ちょ、ちょっと僧侶さん、どうしてそんなに後ろにいるんですか! 戦闘に参加してください。岩に背中を預けるのは止めてください」

僧侶「戦闘に参加したら、背後を取られるだろう。それだけは絶対にできん」

勇者「わ、わかりました。 では、そこから補助呪文と回復呪文をお願いいたします」

僧侶「承知」

 

ちなみに、街の中に入っても、背後をとることを許しません。

街の中には人がたくさんいるので、背後を取られないように、常に建物を背にして歩いています。

一度地形を利用して背後を取ろうとしたら、失敗した挙句無言で詰め寄られました。

 

僧侶「………………………………………………………………………」ジーッ

勇者「あ、あう…」オクチパクパク

 

この状態で30分ほど。

逃げ出そうにも逃げ出したら殺されそうな表情で睨みつけられました。

 

僧侶「何度も言うが、俺の後ろには絶対に立つな。残り少ない寿命をさらに縮めることになるぞ」

勇者「は、はいぃぃ」

 

 

そんなこんなで、もう二度と僧侶さんの背後には立つまいと決心しております。

 

一番危ないのが、まさかの賢者さんです。

この人に関しては、もう何もかもがわかりません。

唯一、危ない人間だということだけはわかります。

 

勇者「あ、あの賢者さん」

賢者「ん、ん?  ななな、なんだな?」ヒィーッスヒィーッス

勇者「な、なんでナイフペロペロしてるんですか?」

賢者「ここ、これしてると、おちおちおちおちつくんだな」ヒィーッスヒィーッス

勇者「あ、危なくないですか?」

賢者「お、お、おでの、らちぇっとさらまんだーはともだちなんだな。ととともだちがきずつけることはないんだな、これが」ヒィーッスヒィーッスヒィーッスヒィーッス

勇者「いや、でもベロから血がしたたり落ちてますよ?」

賢者「ここ、これがすきんしっぷなんだな、うん。もも、もんだいないんだな、これが、うん。」

 

 

覚えている魔法の数も多く、魔法の腕は確かなのに、魔法を使ってくれません。

いつもいつもナイフやダガーや毒針といった、短射程の武器を持って敵陣に突っ込みます。

一度、爆弾岩の群れに遭遇した時は、死を覚悟しました。

 

賢者「きぇぇぇーーーーい!!  それっそれっそれっそれい!!」ザクッザクッザクッザクッ

 

満面の笑みを浮かべて、普段の活舌の悪さはどこへやら、テンションMAXで爆弾岩を毒針で削り始めました。

 

勇者「あ、あわわわわわわわわわ」オクチパクパク

僧侶「オイオイオイ 死ぬわ、アイツ」

戦士「ほう、毒針攻撃ですか。大したものですね。毒針は一見非効率に見えて実に効率的な武器です。かのメタルスライムハンターも愛用しているとかいないとか」クイッ

僧侶「なんでもいいけどよぉ、相手はあの爆弾岩先輩だぜ」

戦士「計算したところ、我々の通常攻撃では、爆弾岩が爆発する可能性は、わずかに2.7%。生存確率のほうが圧倒的に高いです。が、ああやって毒針で1ダメージずつ与えていく場合、その確率は98.5%まで跳ね上がります。つまりほぼ爆発するということです。急所を探り当てることができれば、爆発する確率はグッと下がりますが…。いずれにしろあれだけの数の爆弾岩相手に毒針攻撃を仕掛けるとは、超人的な肝っ玉というほかはない」クイッ

勇者「な、なに感心してるんですか! 一緒に止めましょうよ!」

戦士「落ち着きましょう、勇者殿。古来、慌てる乞食は貰いが少ないといいます。計算したところ、爆弾岩の爆風に巻き込まれないポイントが、このフィールドにはいくつか存在します。我々はそのポイントに立って、やり過ごすとしましょう」クイックイックイッ

僧侶「俺は背後さえとられなかったら、何でもいい」

勇者「な、何言ってるんですか! このままじゃ賢者さんが死んじゃいます!」

戦士「彼はそれを望んでいるようにも見え…」

そのとき!

ちゅどーん!!

爆弾岩は粉々に砕け散った!!!

 

賢者「…おごぉっ!!」

賢者は息絶えた。

 

勇者「い、言わんこっちゃない」ガタガタブルブル

僧侶「俺はまだ蘇生魔法使えないから、教会行きだな」

戦士「早速まいりましょう」クイッ

勇者「なんでこの人たち、こんなに冷静なの?」

 

あたりに散らばった賢者さんの肉片をかき集め、教会で生き返らせてもらうことに。

 

賢者「い、い、いきかえらせてくれて、ありがとうだな、うん」

勇者「これに懲りたら、もうあんな危ないことは止めてくださいよ!」

賢者「そそ、それはできないんだな、うん。あのばくはつするしゅんかんがたまんないんだな、これが」

勇者「えええっ!! じゃあ、爆発するように仕向けたってことですか?」

賢者「あたあたあたりまえなんだな、これが。どくばりのじてんでさっしてほしいんだな、うん」

勇者「もうやだぁ」

 

なぜこんなことになってしまったのか…。

思えば、旅立ちの時から間違えていたような気がします。

 

現実は厳しいものです。

魔王を倒す旅に、キャッキャウフフの女の子たちなんか連れて行った日には、倒せるものも倒せません。

屈強な男たちでパーティを固めようと決心し、酒場に行ったのが間違いでした。

 

そこで勧められたのが、

「戦う漢のパーティ」

 

勇者「な、なんですかそれは…」

店主「戦う漢のパーティよん。命も省みず、敵陣に突っ込んでいってくれるわ」

勇者「ものすごく危ない気が」

店主「なーに言ってんの! 魔王を倒すんでしょ!? だったらこのくらい個性的なパーティじゃないとやってけないわよん」

勇者「それもそうですね!」

 

今は心底後悔しております。

が、パーティチェンジをしようものなら、自分の命が狙われるのではないかと不安で不安でたまりません。

仕方なく、しばらくはこのパーティで旅をつづけることにします(というか続けざるを得ません)。

 

またご報告いたします。

お袋様もお元気で。