どんもっす。
昔話シリーズその➉
昔話の狼が実在したら、たぶんこんな感じ
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俺は狼。
昔話ではよく悪者扱いされているが、極めて心外だ。
俺は被害者だ。
断言できる。
今日はそのあたり、話していこうと思う。
まず、三匹の子豚。
木の家は言うまでもないが、藁の家を吹き飛ばすのも物凄い肺活量が必要だ。
ちょっとやそっとでは吹き飛ばない。
この日のために、インターバルトレーニングを重ねてきた俺でも音を上げてしまう代物だ。
さらに頑張って吹き飛ばしたとして、その後にさらなる試練が待ち受けている…。
そう…。
丸飲みだよ…
子豚一匹を…
考えてみてほしい。
いくら子豚一匹とはいえ、丸飲みするのがどれだけ大変かを。
子豚なんて丸飲みしても美味しいものじゃない。
俺だって普通に丸焼き(漫画によく出てくるアレ)にして、美味しく頂きたいところなのに…。
丸飲みって…。
でも、ストーリー上そうなっているのだから仕方がない。
この日のために、ロールケーキを子豚に見立てて、ひたすら丸飲みする日々を送ってきた。
そしてついに当日を迎えた。
とりあえず藁の家を吹き飛ばす。
藁とはいえ、家を作っているのだから総量はとんでもない。
体中の酸素を使いすぎて頭がフラフラしている。
もうこの時点で、もはや子豚なんてどうでもよく、このまま家に帰って寝転がりたいくらいだ。
…しかし、それではストーリーが1mmたりとも進まない。
気も進まないが、目の前で怯えている子豚を丸飲みすることにする。
…やはり喉に引っかかる。
顎に至っては半分外れている。
それでも、丸飲みしないといけない都合上、丸飲みせざるを得ない。
…なんやかんやで丸飲みできた。
まずい。
のどごしなんて最悪だ。
のどごし生!って、そりゃー生だよ。
なまもの丸飲みしたもの。
ちなみに、丸飲みしたせいで、子豚は生きている。
俺の腹の中で。
踊っている。
踊り狂っている。
おかげで気分は最悪だ。
吐き出そうにも、喉につかえて吐き出せない。
仕方なく、全てを忘れて寝ようとするも、腹が気色悪くて眠れない。
吐き出そうにも吐き出せない。
この気持ち悪さが伝わるだろうか…
くっそ…なんで俺がこんな目に…
俺に残された道はただ一つ、全てのストーリーを進めて解放されるしかない。
ということで、二匹目、木の家の前に来た。
うぐぅ…
ただでさえ腹が気持ち悪いのに、思いっきり息を吐かねばならないとは…。
ふごごごごごおおおおおお!!!
涎と胃液まみれになりながらも、何とか木の家を吹き飛ばすことができた。
半分鼻水も垂れている…。
それにしても気持ち悪い…。
腹の中の子豚は暴れるし、息を吐きすぎて、頭はガンガンするし…。
さらに、この上、子豚をもう一匹丸飲みしなければならない。
ゆっくりと味わうこともなく…。
これが地獄でなくて、なんなんだ…。
くっそ…なんで俺がこんな目に…。
あ…あぐぐぐぐぐぅ…
おごおごおおおおおお…
何とか子豚をもう一匹丸飲みすることができたが…。
気分は最悪だ。
さっき、一匹目を丸飲みした後も、気分は最悪といったが、ありゃ嘘だ。
今のほうがよっぽど最悪だ。
こんな短時間で最悪を更新してしまうとは。
ちなみに腹の中の子豚は二匹とも生きている。
生きて、腹の中で踊り狂っている。
間違いない…。
あいつら、俺の腹の中でオクラホマミキサー踊ってやがる。
あまりにも鬱陶しいので、腹パンしてみる…
おごぉ!!
い、いてえ…痛すぎる。
腹が気色悪い…。
おまけに吐き出すこともできやしねえ。
このまま二匹の子豚を消化するまで粘ってみるか?
いや、丸飲みした子豚二匹を消化するなんて、何日かかるか分かったもんじゃない。
これはやはりストーリーをとっとと進めて、熱湯でグラグラ茹でられて、二匹の子豚を吐き出して、助けてもらうしかない!
そうと決まれば、早くレンガの家へ…
…ようやくたどり着いた…
7回くらい吐きそうになって、15回くらい死にかけた…
…ようやく解放される…この地獄から…
さて、目の前のレンガの家だが、吹き飛ばすこともできなければ、吹き飛ばす必要もないので、適当に吹いて終わりだ。
はい、ふーふーと。
はい、オッケー。
中で3匹目の子豚が、え?それで終わり?みたいな顔しているが、気にしている余裕はない。
あとはわざとらしく大きな声で、「かくなる上は、煙突から入るぞー!」と中の豚野郎に伝えて、窯ゆでの刑にしてもらえば、ハッピーエンドだ!
適当な梯子を使って、煙突まで上がる…
うぐうぅ…
死ぬほど気持ち悪いし、死ぬほどキツイ…
は、早く窯茹での刑にして、この地獄から解放してくれ…
煙突の中を覗き込むと、いい具合にグツグツと煮えている。
よしっ!
飛び込む!
ボチャーン!!
あじゃじゃじゃじゃじゃ~!
「二匹の子豚を吐き出すから、助けてくれ~」
!!!
事ここに至って、俺は物凄い事実に気づいてしまった!
そう、最後の最後は、自分で二匹の子豚を吐き出さなければいけないのである。
しまった…
猟師に腹搔っ捌いてもらえるのは赤ずきんだった…
子豚一匹でさえ吐き出せないのに、二匹も吐き出せるわけねーだろ。
とはいえ、吐き出さないと、この地獄は延々と続く…。
かくなる上は…最終手段!
おおおう~~~!!!
ドンっ!!
ふう、スッキリ!
何とか二匹吐き出すことができた。
何とか豚野郎に許してもらって、うれし涙をながら山に帰ることができた。
いかがだろうか?
俺の苦労がおわかりいただけただろうか?
さて、本題はここからだ。
赤ずきんである。
子豚はまだ円筒形の形をしているので、何とかなった。
赤ずきんとばーさんは、人型だ。
ストーリー上、それを丸飲みしなければならない。
まずこれを見てほしい。
いかがだろうか?
そう、俺とばーさんの体格がほとんど同じだということだ。
いくら体積保存の法則がこの世界に存在しないとはいえ、これは非常にまずい。
自分と同じ体積の物体を丸飲みできるわけがないからだ。
昔話の挿絵では丸飲みした後、俺の腹がぷくーと膨れ上がっている描写がなされているが、あんなものでは済まない。
そもそもあんなに胃袋が膨れるわけがない。
どう考えても不可能なミッションである。
それも二人て…。
しかし、俺には秘策があった。
そう、ばーさんを丸飲みして、俺の体の隅々までばーさんを行き渡らせるのである。
どういうことか?
ばーさんを足から丸飲みしていく。
そうして、ばーさんの左足が俺の左足と同じ位置にくるまで飲み込むのである。
同じ要領で、ばーさんの右足は俺の右あし、ばーさんの右手は俺の右手…という風にして、ばーさんを俺の体の隅々まで行き渡らせる。
もちろん生きたままで。
着ぐるみを着たような状態と言えば、分かりやすいだろうか?
さて、いよいよ実践である。
……………
なんとかばーさんを生きたまま丸飲みすることができた。
ばーさんのケツが思いの外大きくて、喉を通らないかと思ったが、何とかなった。
今、ばーさんは俺の体の隅々まで行き渡っている。
しかも生きたままで。
苦しいなんてもんじゃない。
生き地獄である。
もちろん、俺が。
さっきも言ったが、俺とばーさんの体格はほぼ互角。
すなわち、俺の口を開けたら、ばーさんの顔がこんにちはしている。
恐竜の着ぐるみと言えば、ご理解いただけるだろうか?
恐竜の着ぐるみを着た人の顔が、恐竜の口部分から見ることができるが、あの状態である。
ばーさんは当然生きている。
さっきも言ったが、ばーさんの体が俺の体の隅々まで行き渡っている。
ばーさんの意識もある。
これがどういうことがおわかりいただけるだろうか?
すなわち、ばーさんが右手を動かしたら俺の右手が、左手を動かしたら俺の左手が動いてしまう。
さらに、俺はばーさんを丸飲みしてしまったことで、呼吸が非常にしづらい。
なんせ、口を開けたらばーさんこんにちは、である。
…いかん!
酸素が足りず、意識が朦朧としてきた…。
このままでは、ばーさんに俺の体を乗っ取られてしまう。
かと言って、ばーさんを吐き出すわけにはいかない。
っつーか、吐き出せるわけがない。
自分と同じ体積の物体を、飲み込むことはできても、吐き出せるなんてできやしない。
俺に残された道はただ一つ、ストーリーを進めて、猟師に腹を搔っ捌いてもらって、助けてもらう以外にはない。
とはいえ、この後のストーリーをどう進めろというのか…。
今の俺は体中にばーさんがみっちりと詰まっている。
口を開けたらばーさんチラリ…である。
もはや米一粒すら飲み込むことはできない。
ましてや人型の赤ずきんなんて不可能である。
くっそ…なんで俺がこんな目に…
さっきからばーさんが口の中で、呪いの言葉のようなものを呟いている…
呪いの言葉を呟きたいのはこっちだっつーの。
何が悲しくてばーさんに体を乗っ取られにゃならんのだ。
前世でどんな悪行積んだんだ?
…待てよ?
ばーさんか…
ピーンときた!
赤ずきんをばーさんに丸飲みさせれば、いいのでは?
ばーさんは、俺のように何かを丸飲みしているわけではないので、体の中にまだ空きがある。
俺がやったみたいに、ばーさんに赤ずきんを丸飲みさせ、ばーさんの体に赤ずきんを隅々まで行き渡らせる。
そうすれば、いけるのでは?
………いけた。
上手いこといった。
俺の体の隅々までばーさんが行き渡り、ばーさんの体の隅々まで赤ずきんが行き渡っている。
さながらマトリョーシカだ。
当然赤ずきんも生きている。
ばーさんが口を開けたら、赤ずきんこんにちは、である。
赤ずきんの意識もある。
赤ずきんが右手を動かしたら、ばーさんの右手も動く。
さらに、ばーさんは赤ずきんを丸飲みしたことによって、やはり呼吸がしづらいらしく、虫の息だ。
どうやら、ばーさんも体を乗っ取られる恐怖を味わっているらしい。
くっくっく…。
俺が味わった恐怖を、お前も味わうがよい。
って言ってる場合じゃねえ!
俺はさらにきつい。
体積自体は何ら変わってないが、赤ずきん分重量が増えている。
その分負担も大きい。
というか、赤ずきんが動いたら、ばーさんも動くので、必然的に俺の体も動いてしまう。
もはや俺の意識は限界に近い。
赤ずきんに乗っ取られたばーさんに俺の体が乗っ取られてしまう…
そんなくだらないことを考えながら、俺の意識は闇の中に落ちていった…。
はっ!
目を覚ますと、俺の腹が何やら縫われていた。
どうやら、猟師が間に合って、俺の腹を搔っ捌いて、赤ずきんとばーさんを助けて、代わりに石を詰めて、縫って終わりというところまでストーリーが進んだらしい。
なんという、天国だ!
人間二人丸飲みしたことに比べたら、石が腹に詰まっているなんて、なんでもない。
そのうち消化してしまうし。
涙が出るほど嬉しい。
とりあえず、猟師にお礼を言う。
猟師も、
「いや、え? なんで感謝してんの?」
みたいな顔していたが、気にしない。
あとは山に帰って、自分の寝床でぐっすりだ。
いかがだろうか?
これでも俺は悪役か?
それとも被害者か?
あとは、君たちの判断にゆだねる。