どんもっす。
昔話シリーズその⑨
裸の王様が賢かったら、たぶんこんな感じ
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ある国に、新しい服が大好きな、おしゃれな王様がいました。
ある日、城下町に二人組の男が、仕立て屋という触れ込みでやってきました。
彼らは、馬鹿な人間の目には見えない、不思議な布地をつくることができました。
噂を聞いた王様は2人をお城に召し出して、大喜びで大金を払い、彼らに新しい衣装を注文しました。
仕立て屋「王様、完成しました。馬鹿には見えない、大変綺麗な衣装でございます。ご覧ください、この素晴らしい出来栄えを!」
王様「原理は?」
仕立て屋「はい?」
王様「いや、だから原理は?」
仕立て屋「え…えーと… 原理と申しますと?」
王様「だから、見えない原理を聞いておるのじゃよ」
仕立て屋「これは、馬鹿には見えない素材でできています。ですから、馬鹿には見えない次第でして…」
王様「いやいや、馬鹿には見えない、というのはわかった。その原理よ、ワシが聞きたいのは」
仕立て屋「と申されますと…」
王様「よいかな? そなたらも知っての通り、物が見える原理というのは、物がそこにあるから、などというアバウトな説明では到底解決されんのじゃ。とある物体に光が当たり、その反射した光を、生物の目が感じ取ることによって、初めて物体があると認識できる(物体が見える)わけじゃ。すなわち、可視光線の反射じゃよ、反射。それが、全く見えないときている。少なくともワシの目には見えん。大臣はどうじゃ?」
大臣「左様でございますな。 私の目にも全く見えません」
仕立て屋「であれば、恐れ多いですが、王様と大臣が馬鹿だというだけの話では…」
王様「ふむ。それは問題ない。馬鹿には見えない服であり、ワシと大臣は見えない。すなわちワシと大臣は馬鹿であるということじゃ。しっかりと証明できておる。何の矛盾も問題もない。問題は、馬鹿だとなぜ見えないのか?ということじゃ。それはどういう原理じゃ? 馬鹿には感知できない波長の光ということか?」
仕立て屋「え、え? 波長? 光?」
王様「いやいや、専門用語で説明されて構わん。ワシも大臣も、馬鹿ではあるが、それなりの物理学や生物学を専攻しておる。のう、大臣よ?」
大臣「左様でございますな。 手前みそではございますが」
仕立て屋「せ、専門用語?」
王様「例えば、じゃ。カラスと人間では見える光の波長が異なる。したがって、カラスは人間よりも多くの色を見分けることができる。」
仕立て屋「は、はあ…」
王様「おぬしらは、馬鹿には感知できず、賢者には感知できる波長の光を反射する素材で服を作ったと見える。どうじゃ?」
仕立て屋「お、仰る通りでございます」
王様「ほほう。やはりのう。これは、材料の素晴らしさにのみ目が行きがちじゃが、生物学を網羅していなければ、できないことじゃ、のう大臣?」
大臣「左様でございますな。馬鹿と賢者で感知できる光の波長が異なることを生物学的に突きとめ、しかる後にその条件を満たした素材を使用して、服を作らねばなりませんから」
王様「いや、誠にあっぱれ! 世が世なら、ノーベル賞間違いなしじゃ! しかも生物学と物理学同時受賞! ものすごい功績よ!」
仕立て屋「あ、あの~…」
王様「早速学会で発表するがよい! それとも、もうされたのかな?」
仕立て屋「い、いや… 学会とかで発表するつもりは…」
王様「なぜじゃ? ワシはそなたらに、100代先まで遊んで暮らせる金を与えることはできる。しかし、名誉を授けることはできん。学会で発表すれば、そなたらの名前は1000年先まで語り継がれるであろう」
仕立て屋「い、いやですね、あの…その… そういう名誉とか地位とかは全然興味がなくて…」
王様「なんと! これほどの大発明&大発見をしておきながら、地位も名誉もいらぬと申すか! いや、誠にあっぱれ! 大臣よ、ワシらも見習いたいものよのう」
大臣「左様でございますな。私がこのような発見&発明をしてしまったら、動悸が止まらず、そのままショック死するかもしれません」
王様「ワシも死ぬ自信がある。いや、今もう既に興奮で死にそうじゃ」
仕立て屋「いやいやいやいや、死んではいけません。で、では、わ、我々はこのへんで…」
王様「何を言っておる。その着心地を試させい!」
仕立て屋「ええ! 着るんですか!」
王様「おうとも! 着ずにはおられん」
仕立て屋「で、では、失礼して…」
ー王様試着中ー
仕立て屋「いかがでございましょう?」
王様「ふうむ。全く着ている感じがせん。そもそも肌触りを全く感じない。これはどういう原理じゃ?」
仕立て屋「あ、見えない素材でできておりまして… そのー…肌ざわりとかも…」
王様「いやいや、遠慮しないで説明してくれて構わん。それなりの専門用語その他使って説明してくれぬか」
仕立て屋「ですから、王様には見えない素材ですから… 触っている感触もないのではないのかと…」
王様「これは異なことを申すのう。見えないことと触れないことは全くもって違う理じゃ、のう大臣よ?」
大臣「左様でございますな」
仕立て屋「あ、あの…その…」
王様「よいかな? 例えばガラスじゃ。ガラスは透明じゃ。しかし触れることはできるじゃろ? 物理的に存在するからじゃ。すなわち、見えない=触れないということは成り立たん。もっとも、ガラスは見えるといえば見えるがのう」
仕立て屋「は、はあ…」
王様「推測するに、そなたらは、馬鹿では触れても感じない素材で作ったと見える。どうじゃ?」
仕立て屋「あ、そそ、その通りでございます」
王様「ほほう。やはりのう。これは材料の素晴らしさにのみ目が行きがちじゃが、生物学を網羅していなければ、できないことじゃ、のう大臣?」
大臣「左様でございますな。馬鹿と賢者で感知できる物質のセンサー限界を生物学的に突きとめ、しかる後にその条件を満たした素材を使用して、なんやかんやで服を作らねばなりませんから」
王様「それにしても見事よのう。重さを全く感じないし、着ている感じも全くしない。そもそも寒い。まるで着ていないかのようじゃのう」
仕立て屋「お、お褒めにあずかり光栄でございます」
王様「ところで、大臣の分はないのかな?」
仕立て屋「お、恐れながら、もも、もう一着用意させていただいてございます」
大臣「では僭越ながら…ほほう、これはお見事! 確かに何の着心地もないですな。そして寒い。本当に何も着ていないかのような錯覚でございます」
王様「いや、誠にあっぱれ! 世が世なら、ノーベル賞間違いなしじゃ! ものすごい功績よ!」
仕立て屋「あ、あの~…」
王様「早速論文で発表するがよい! それとも、もうされたのかな?」
仕立て屋「い、いや… 論文とかで発表するつもりは…」
王様「なんと! これほどの大発明&大発見をしておきながら、地位も名誉もいらぬと申すか! いや、誠にあっぱれ! 大臣よ、ワシらも見習いたいものよのう」
大臣「左様でございますな。私がこのような発見&発明をしてしまったら、動悸が止まらず、そのままショック死する自信があります」
王様「ワシも死ぬ自信がある。いや、今もう既に寒さで死にそうじゃ」
仕立て屋「そ、それでは我々はこれで…」
王様「待てい!」
仕立て屋「(びくぅ!)な、なんでしょう?」
王様「何をこそこそ帰ろうとしておるのじゃ? 褒美を取らせてしんぜよう」
仕立て屋「あ、ああ。ありがとうございます!」
王様「大臣よ、彼らに100代先まで遊んで暮らせる財宝を授けい!」
大臣「御意!」
仕立て屋「あ、い、いえ、そんなには…」
王様「なぜじゃ? 少々の財宝では、ワシの気が済まん。ちょっと重いが、頑張って持って帰ってくれい!」
仕立て屋「は、はい」
王様「そうそう、この衣装はそなたらに返そう。これを着て帰るがよい。これはそなたらのような賢者にこそふさわしい服じゃ!」
大臣「では、私めの衣装もお返しいたしまして…これで二人分ちょうどですな」
仕立て屋「い、いえ、結構でございます…」
王様「なぜじゃ? 遠慮はいらんぞい」
仕立て屋「あ、いえ…その… そ、そうですよ! これを我々が着て帰ったら、王様たちの分がなくなります。そうなると、献上した意味が… 財宝もいただいたことですし…」
王様「いやいや、見えない、触れないワシらが持っておっても、それは宝の持ち腐れじゃ。それに財宝のことは気にせんでもよい。それはそなたらの発明に敬意を表して授けたものじゃ。この衣装との対価として渡したものではない。遠慮はいらんぞい」
仕立て屋「そ、そうは申されましても…」
王様「どうした? 何か都合の悪いことでもあるというのか?」
仕立て屋「い、いえ、そういうわけでは…」
王様「決まりじゃ! 早速この場で着替えるがよい!」
仕立て屋「ええっ!!!」
ー仕立て屋着替え中ー
王様「ほほう。ものの見事に着こなすものよ」
仕立て屋「え? 王様…見えないはずでは?」
王様「うむ、全く見えん。しかし、着こなしているのはわかる。いや、あっぱれ!」
仕立て屋「わ、我々はこの辺で…」
王様「待てい!」
仕立て屋「(びくぅ!)ま、まだ何か?」
王様「そのまま返しては、この国の恥じゃ! 盛大なパレードで持って帰そうぞ!」
仕立て屋「い、いやいやいや、そそ、そんな恐れ多い!」
王様「なに、遠慮するには及ばん! 大臣、早速仕立て屋凱旋パレードの準備じゃ!」
大臣「御意」
ー仕立て屋パレード中ー
民A「世紀の発明家、仕立て屋コンビ、バンザーイ!」
民B「ありがとぉぉぉ! ありがとぉぉぉ! 仕立て屋、思い出ありがとぉぉぉ!」
仕立て屋「あ、あわあわあわ…」
王様「うむうむ。民よ! 写真も遠慮なく撮るがよい! そして、インスタとかフェイスブックとかにあげまくるがよい!」
民「うおおおおおおお!!!」
仕立て屋「えええ! お、王様それは困ります…」
王様「なぜじゃ? どっちみちワシが着て公開する予定じゃった。それがそなたらが着ているだけ。何の不都合もあるまい」
仕立て屋「い、いえ、我々は…その… SNSとかに顔だしNGなので…」
王様「それは有名人の宿命というものじゃ。そなたらは遅かれ早かれ、世界中に名前が知れ渡る。であれば、今のうちに写真を撮らせてくれてもよかろう」
仕立て屋「い、いや…それはそうかもしれませんけど…」
王様「心配しなくとも、そなたらに何かあれば、こっちで全力で守ってやるわい。そもそもそなたらに与えた財宝で、100代先まで遊んで暮らせるしのう」
仕立て屋「は、はあ…」
ー子供登場ー
子供「あれれ~? おかしいよ~? このおじちゃんたち、裸だよ~」
王様「ほっほっほ。坊や、これは馬鹿には見えない衣装なのじゃ。したがって、坊やは馬鹿ということになる。このバーカ!」
大臣「馬鹿でございます、坊や」
仕立て屋「そ、そんなストレートに…」
子供「うわーん! ぐれてやる!」
王様「馬鹿なガキは始末に負えないものよ」
大臣「全くでございますな」
ー国境付近にてー
仕立て屋「こ、このへんでもう結構でございます」
王様「そうじゃな。名残惜しいが、この辺でお別れじゃ」
仕立て屋「そ、それでは色々とありがとうございました」
王様「待てい!」
仕立て屋「(びくぅ!)ま、まだ何か?」
王様「おぬしら、財宝をたんまり持っておる。道中不安じゃろ? そこで我が国の精鋭中の精鋭、グランとリオンを護衛につけよう」
仕立て屋「い、いやいやいやいや! 結構でございます」
王様「なぜじゃ? この辺は山賊に海賊に空賊がうようよおる。それだけの財宝を抱えておいては、良いカモじゃ。それとも、何か不都合でも?」
仕立て屋「い、いえいえ、滅相もございません!」
王様「よし、決まった! グランとリオン、護衛につけい! くれぐれも粗相のないようにな!」
グランとリオン「ははっ!!!」
王様「それではの。達者でな。また我が国の近くを通ることがあれば、ぜひとも立ち寄ってくれい」
大臣「首を長くしてお待ちしております。」
仕立て屋「あ、ああ… は、はいいぃ…」
ー数日後ー
王様「して、奴らはどうなった?」
大臣「死体で見つかってございます」
王様「死因は?」
大臣「凍死でございます」
王様「財宝は?」
大臣「グランとリオンが回収済みでございます」
王様「ふむ。概ねこっちの思惑通りじゃの」
大臣「左様でございますな」
王様「グランとリオンは良くやったようじゃの」
大臣「はい。彼らが服を着そうになったら、あの手この手で妨害したようです」
王様「よかよかうむ。それにしても…ぷーくっくっくっくっくっくっく! ぐわーっはっはっはっはっはっは!」
大臣「ふふふ。そんなに面白かったので?」
王様「これが笑わずにおれるか! あいつらの困り果てた顔、覚えておるか?」
大臣「しっかり写真に収めてございます」
王様「おお! さすがは大臣! それにしても…くくく…ぐわーっはっはっはっはっはっは!!」
大臣「傑作な連中でございましたな」
王様「そもそも、あの程度の知識でワシを騙そうなどと考えるのがお門違いじゃ! ここの国境は、今の季節は吹雪が吹き荒れる。そんな環境を裸で、クソ重たい財宝を引きずりながら歩き通して、挙句の果てに凍死じゃぞ! ぐわーっはっはっはっはっはっは!!!!」
大臣「ちなみに、死体の写真はグランとリオンが撮ってございます」
王様「おお! 早く見せんか! ほー、折り重なるようになっとるのう」
大臣「グランとリオンの報告によると、二人で肌を寄せ合って、暖めあっていたとか」
王様「くっくっく! 最期はぜひ見たかったがのう! 早々に罪を認めれば、許してやらんでもなかったのじゃが…」
大臣「これは、意地の悪いことを… アイアンメイデンと迷っておられましたでしょうに」
王様「おう! そうじゃそうじゃ! せっかくアイアンメイデンを買ったから、使わねばのう。宝の持ち腐れじゃ。次はどんな奴らがターゲットじゃ?」
大臣「そうですな。この者たちはいかがでしょうか」
王様「ほほう。面白そうじゃのう。早速連れてまいれ!」
大臣「御意」
こうして、王宮の一日は過ぎていくのであった。